2012.2.21 みどりの未来・運営委員会
野田政権は、消費税を2014年4月に8%に、15年10月に10%に引き上げることをめざした「税と社会保障の一体改革」の大綱を決定し、通常国会に法案を提出しようとしています。この大綱は、社会保障給付費の増大を支える財源の確保を、もっぱら消費増税に求めています。富裕層への課税強化を申し訳程度に付け加えていますが、不公正きわまる税制の抜本的な改革という課題を棚上げしています。私たちは、まず消費増税ありきという野田政権の「税と社会保障の一体改革」に反対し、公正な増税による社会保障の拡充をめざします。
社会保障の拡充は見せかけ
この大綱は、低所得者への年金加算、パート労働者の厚生年金と企業健康保険への加入拡大など社会保障の機能強化(給付拡充)を前面に掲げています。しかし、それには消費税率5%引き上げのうちの1%(約2.7兆円)だけしか充てられていません。まったく限定的なものでしかなく、年金制度の抜本的な改革が提示されていないことが示すように、社会保障の改革にはほど遠いものです。社会保障の拡充とはいっても、消費増税を人びとに受け入れさせるための看板にすぎません。
社会保障の拡充を支える財源の確保
高齢化の進展と貧困の広がり、そして3.11大震災と原発事故は、人びとの生存権を保障するために社会保障の思い切った拡充を必要としています。100兆円を突破した社会保障給付費は、2025年度には151兆円にまで増えると試算されています。同時に、日本の財政赤字は急激に膨らみ、国と地方を合わせた長期債務残高は862兆円(2010年度末)、対GDP比181%にまで増えました。これ以上国債発行による借金に頼り、将来世代にツケをまわす財政運営をすることは許されません。
私たちは、財政赤字を増やさずに社会保障を拡充し持続可能なものにするという課題に直面しています。その際、財政再建を優先して社会保障を大幅にカットするという選択肢もあります。しかし、それは社会的弱者の生存権を脅かし、自己負担の増大によって低所得者が医療や介護のサービスを受けられなくします。
私たちは、社会保障給付費の増大に見合う財源を新しく確保する道を選ぶべきだと考えます。そのために、緊急に取り組むべき課題は、ムダな歳出を思い切ってなくすことです。八ツ場ダムの建設や新規新幹線の整備など不要な公共事業の中止、天下りの根絶、公務員給与体系の是正、5兆円の軍事費の大幅な削減、特別会計の透明化を実行する必要があります。
不公正な税制と所得再配分機能の低下
しかし、歳出のムダをなくすことだけで、増え続ける社会保障の財源を確保することは困難です。また、経済を成長させれば税収が自然に増えるから増税は不必要だという考えもありますが、経済が成長する時代は終わっているのです。
増税は避けては通れません。しかし、増税といえば消費増税しかないという発想に縛られてはなりません。日本の税制の最大の問題は、不公正な税制が作られ、それによって十分な税収が確保できていないことにあります。先進国のなかでも税負担率は低く、税による所得再分配効果は最も弱くなっています。
まず、富裕層への課税が弱められてきました。所得税の最高税率がどんどん引き下げられ、累進性が緩和されました。株式の売却益など金融所得への課税は、勤労所得から分離されていて、一律20%の税率が2003年からわずか10%に引き下げられてきました。さらに、資産への課税も、相続税は基礎控除が大きく最高税率も50%であり、相続人の4%しか納税していません。
また、グローバル企業への課税も穴だらけです。日本の法人税率は40%で高いと言われてきましたが、多くの租税特別措置や欠損金の繰越控除制度によって課税ベースがいちじるしく狭くされているために、実質的な負担は巨大企業ほど軽くなっています。また、企業間の株式の相互持ち合いから受け取る配当金には課税されず、この「法人間配当無税」によって巨大企業の分だけでも1.4兆円の税収が失われています。
まず消費増税ありきの提案の撤回を
この結果、所得税と法人税の税収は、この20年間にほぼ半減しました。しかし、大綱は、不公正な税制を抜本的に改め、税収を増やす提案とはなっていません。
富裕層の負担を増やすと言いながら、所得税の最高税率は5%引き上げて45%、それも課税所得5000万円超に適用するという小手先だけの措置です。相続税は基礎控除を4割引き下げ、最高税率を55%(6億円超)に引き上げて、納税者を6%に増やすとしています。しかし、この程度の改革では、たとえば相続財産10億円の法定相続人の納税額は1億7810万円にとどまり、現行より1160万円増えるだけなのです。
法人税率は5%引き下げられましたが、租税特別措置の廃止は中途半端です。大綱では法人税率のさらなる引き下げを進めるとしています。巨大企業の内部留保は、平均賃金が下がり続けてきたのと対照的に、この10年間で90兆円も急増しました。法人税率の引き下げは、雇用の拡大をともなう投資の増大につながるよりも内部留保のいっそうの増大をもたらすだけです。
大綱は、増税をもっぱら消費税率の引き上げに求めようとしています。消費税は、誰にでも課税でき、景気にかかわりなく安定した税収が得られ、1%の税率引き上げで約2.7兆円の増収が得られます。しかし、消費税は、低所得者ほど負担がより重くなる逆進性という重大な欠陥を抱えています。
大綱は、逆進性の緩和措置として給付付き税額控除を導入するとしていますが、そのために必要な財源を提示していません。また、暫定的に1人当たり年1万円の給付金を低所得者に支給することが検討されていますが、その額は3.5〜5万円と見込まれる低所得者の負担増をカバーするものではありません。
しかも、消費税率を10%に引き上げただけでは社会保障の税支出分を賄いきれず、税率を次々に上げていかざるをえなくなることは明らかです。私たちは、まず消費増税ありきの提案を野田政権が撤回し、税収を増やすために、不公正な税制を抜本的に改革し、富裕層およびグローバル企業への課税を強化することを求めます。
公正な税制改革を実行した上でも、社会保障の財源が不足することが明らかになれば、消費税率を引き上げる必要が生じます。その場合には、逆進性を解消する軽減税率および給付付き税額控除をきちんと導入することが前提条件となります。消費増税は先にあってはならず、最後の手段なのです。
*文言を微修正しました。2012.3.5