2011年11月12日 みどりの未来運営委員会
野田首相は、11月11日、APEC出席を前にしてTPP(環太平洋経済パートナーシップ協定)交渉への参加を表明しました。
TPPへの参加は、私たちの暮らしと経済や社会のあり方を根本的に変えてしまう可能性があります。多くの問題点が明らかになるにつれて市民の中で関心や不安も高まっており、多角的な視点から十分な討議が必要です。しかし、野田首相はひたすらアメリカにだけ顔を向け、国内での熟議と合意形成のプロセスを軽んじ、TPP交渉参加を独断で決定しました。私たちはこれに強く抗議し、その撤回を求めます。
■農業を滅ぼす選択にノ―を
TPPは、「例外なき関税撤廃」を原則とし、10年以内にすべての品目の関税をなくすことを目指しています。TPPは、貿易額の大きさや経済規模から考えれば、日本にとって事実上の日米FTA(自由貿易協定)を意味します。関税撤廃により安価な農産物が大量に輸入され、米作や酪農などが壊滅的な打撃を受けることは確実です。農水省の試算では、すでに先進国中で最低の40%にまで低下している食料自給率が、TPP参加によって14%にまで急落すると予測され、食料主権が失われてしまいます。
これに対してTPP推進派は、TPP参加が経営の大規模化によって生産性を高め、輸出産業に成長させる「農業改革」のきっかけになると主張しています。政府も農業経営の規模を現在の10〜15倍(20〜30f)にまで拡大する方針を打ち出しています。しかしこれは、多くの零細な農家を切り捨て、一部の大規模農家や農業生産法人だけを生き延びさせる道です。これは、農業を工業と同じように生産性優先の一産業としてしか見なさない考え方であり、農業が生命を育む食を提供し、地域経済を支え、自然環境を保全する多面的な機能を持つことを無視するものです。
政府は、TPPに参加すればGDPを10年間で0.54%、2.7兆円押し上げると試算しています。しかし、農業を犠牲にして自動車や電機製品の輸出に依存して経済成長をめざすという道は、すでに破綻しています。多くの日本企業がすでに生産拠点を海外へ移転している中で、関税撤廃による輸出増加の効果は限定的で、しかもその目論見は円高が少し進むだけで吹き飛んでしまいます。
■医療をはじめ社会のルールと制度の破壊は許されない
TPPは、関税だけではなく、非関税障壁の撤廃をめざしています。それは、人びとの生命・健康や生活を守るために作られてきた社会の一連のルールや制度を根本的に変更するものです。すでにTPP参加9カ国が21の分野で交渉している内容を見れば、遺伝子組み換え食品の表示ルールや残留農薬基準などが緩和される可能性があることがわかります。保険診療の縮小と保険外診療の拡大を招く「混合診療」の全面解禁や株式会社の参入によって国民皆保険制度が崩れる危険性もあります。
「医療は交渉分野には含まれない」と説明してきた政府も、「混合診療が議論の対象になる可能性がある」と認めざるをえなくなりました。アメリカが「年次改革要望書」で要求してきたこれらの課題を交渉に持ち出さないはずはありません。事実、米韓FTAでは、コメの関税を例外扱いとする一方で、保険や医薬品の分野でアメリカ企業の参入の自由や特許権の強化が認められ、投資家による政府に対する損害賠償請求訴訟の項目が規定されました。TPPの中に、それらと同じような枠組みがつくられることは想像に難くありません。前原民主党政調会長は、社会のルールや制度が破壊されることへの危惧を「TPPおばけ」と揶揄しましたが、それは「おばけ」ではなく、現に実在しているのです。
■アジアに背を向けるTPP参加
TPP推進を主張する人びとは、「アジアの成長を取り込むためにTPPに参加すべきだ」と言います。しかし、日本の最大の貿易相手国となった中国は、TPPに参加していません。TPPは、輸出倍増による雇用創出というオバマ大統領の目論見に沿って推進されているものであり、アメリカが中国に対抗して日本やアジア諸国を囲い込もうとする仕組みです。明らかにされた政府の内部文書は、APECで「日本が参加表明できれば、米国が最も評価するタイミング。これを逃すと米国が歓迎するタイミングがなくなる」と述べています。アメリカのご機嫌をとるために拙速な参加表明をした本音が露骨に示されています。TPP参加は、日米同盟を強化すれば万事うまくいくという旧態依然たる発想に立って、アジアに背を向ける選択でしかありません。
私たちは、TPPへの参加ではなく、アジアのすべての国々との公正な貿易と経済協力の関係を築いていく道を選ぶべきだと考えます。そして、経済成長の神話と決別し、輸出依存の経済から内需中心のエコロジカルな循環型経済に転換するべき時だと考えます。