2011年7月22日 みどりの未来・運営委員会
■ 逮捕・勾留の濫用は市民社会の存立基盤を破壊する
いわゆる「足利事件」の再審過程において、服役中だった菅谷利和さんの無罪が確定し、これが冤罪だったことも明らかになりました。菅谷さんは長期間逮捕・勾留され、不本意な自白を余儀なくされ、取り調べの経緯が不透明な中で、従来の確定判決では菅谷さんは殺人犯と断定されていたのです。
必要性が認められないにもかかわらず、市民が逮捕・勾留される例は最近も少なくありません。著名なものでは、調査捕鯨の実態を告発する活動をしていたグリーンピースジャパンの活動家の逮捕・勾留(2008年6月)、麻生首相(当時)の自宅付近でデモに参加した若者たちの逮捕(2008年10月)、「三里塚現闘本部仮執行停止」を求める裁判で東京高裁の判決に抗議した50名の逮捕(本年5月20日)などが挙げられます。司法・警察による逮捕・勾留権の濫用は、市民が安心して暮らす権利を奪うものであり、特にそれが社会的活動を行なってきた市民に対するものである場合、社会活動を委縮させ、市民社会の存立基盤を破壊するものと言わなければなりません。
■ 日本の刑事司法の問題点
憲法33条や35条が逮捕・勾留に裁判官の令状を必要としているのは、捜査当局の恣意によって人権が侵害されることのないようにすることが理由です。刑事訴訟規則(143条の3)では、「逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡するおそれがなく、かつ罪証を隠滅するおそれがない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。」と規定しており、逮捕状の発行について裁判官に慎重な判断を求めています。
また、国家公安委員会が制定した犯罪捜査規範(118条)ですら、「逮捕権は、犯罪構成要件の充足その他の逮捕の理由、逮捕の必要性、これらに関する疎明資料の有無、収集した証拠の証明力等を充分に検討して、慎重適正に運用しなければならない。」と規定し、捜査当局自身、逮捕権を濫用することを戒めています。
それにも関わらず、捜査当局は「慎重適正な運用」をせず、裁判所も、逮捕の必要性が乏しい事案でも逮捕状の請求をそのまま認めてしまっているのが現状です。
こうした現状に対し、国連の自由権規約委員会は、2008年10月30日、日本政府に対し、「逮捕された瞬間から法的援助にアクセスできる権利の確保」「取調べの厳格な時間制限」「法律を遵守しない行為への制裁に関する立法措置」「取調べの全過程の体系的な録音・録画」「弁護人が取調べに立ち会う権利」「警察の取調べにおいてなされた自白よりも現代的な科学的証拠に依拠」などを求める勧告を行なっています。
捜査における不透明性や、それによって真実に反する不本意な自白を余儀なくされる日本の実態は、国際社会の批判するところとなっているのです。そして、こうした国際社会の指摘は、逃亡や証拠隠滅防止という逮捕・勾留本来の目的を離れて、自白獲得などの目的で逮捕勾留を行うことを戒めたものでもあります。
■ 吉川前県議への必要性なき逮捕・勾留
このような中、みどりの未来会員であり、前・千葉県議会議員の吉川ひろしさんに対する逮捕・勾留が行われました。吉川さんは、今年の3月8日、「議会報告書」をポスティングするため50ccバイクで国道を通過しました。これに対し、柏警察の交通課長は吉川さんが信号を無視して通行したとして(吉川さんによれば信号無視の事実はない)、吉川さんに出頭通知を出し、吉川さんは電話で「6月には、再度の説明に伺う」と返事をしましたが、警察署は「出頭を拒否した」として、5月31日に吉川さんの自宅を捜索し、吉川さんを逮捕しました。その後、「勾留する理由はない」という弁護士の申し入れを受け、担当検察官は6月2日にようやく柏警察に釈放命令を出しました。
本件において、吉川さんの置かれた状況や疑われた犯罪の軽重を考えれば、逃亡のおそれがあるとは言えず、勾留の必要もありません。しかも捜査に応じる姿勢も示しており、任意捜査でも十分対応できたものです。これでは、吉川さんが県議時代に警察のあり方を批判したことへの報復であると疑われてもやむを得ません。そして裁判官が逮捕の必要性を本当に検討したのか、憲法で期待された役割を本当に果たしたのか、きわめて疑問です。
■ 国際的な人権水準に沿った刑事司法を
みどりの未来は、安心な市民生活を守り、健全な市民社会を確立・発展させるためにも、逮捕・勾留による冤罪の発生や、必要性なき逮捕・勾留による市民社会への圧迫など、司法・警察による権力の濫用が二度と行われないことを求めます。
私たちは、捜査当局に対しては、逮捕状の請求にあたっては犯罪捜査規範118条を遵守すること、裁判官に対しては、逃亡や証拠隠滅のおそれが本当にあるのか必要性を十分に判断した上で逮捕状を発布すること、そして国会に対しては、刑事訴訟法を改正して取調べの可視化はもとより、取調べにおける弁護人の立会権、起訴前における証拠の閲覧・謄写の権利を速やかに保障すること、そして逃亡・証拠隠滅のおそれを逮捕要件として明記することを求めるものです。