2010年6月29日
暴力の連鎖を断ち切るために
〜コロンビア大統領選挙・緑の党大健闘〜
足立力也(みどりの未来運営委員・コスタリカ研究家)
世界初の緑の党の大統領誕生が期待された南米・コロンビアの選挙は、現職のウリベ大統領の後継者とされる与党・国民統一党のサントス候補の勝利に終わった。
5月30日に行われた大統領選挙では、サントスの約47%に対し、緑の党のモックス候補は約21%の得票で次点となった。5割を超える得票者がいない場合行われる決選投票(6/20)で、サントスは約69%、モックスは約28%を得票し、「緑の大統領」は夢と消えた。
■争点は「治安」ではない
今回の選挙の争点は「治安」とされた。この国では、保守党と自由党の二大政党が直接的暴力を含む政治抗争を繰り広げ、コロンビア革命軍などの反政府武装組織や、軍から支援を受けた右派民兵組織などによる政治的暗殺・誘拐、営利誘拐、強勢失踪などが後を絶たない状態が、半世紀以上も続いてきた。それに対して現ウリベ政権は、軍を大々的に動員して力で抑え込む手法を採った。それによって治安は改善し、前国防相のサントスが支持を広げたと伝えられている。しかし、首都ボゴタ市の治安改善には、同市の市長であったモックスの貢献が大きく、それはウリベ大統領自身も認めている。実は、真の争点は「治安」ではなく、「平和」や「暴力」といった概念の根本的な相違にある。
■「暴力には暴力を」の現政権
ウリベとサントスの方法論は、「暴力には暴力を」という単純なものである。米軍の力も借りて、政府軍やその手先となる民兵組織を使って反政府勢力を軍事的に叩き潰し、麻薬対策では周辺住民を巻き込みつつコカ畑に枯葉剤を空中散布するといった、文字通り暴力的な手法だ。それに反対する国民は多く存在する。その被害者の多くこそ、国民自身であり、無理やり加害者側に巻き込まれた人も後を絶たないからだ。実際、選挙前に行われた数々の世論調査によれば、モックスがサントスを数%リードしていた。ではなぜ、その意識が投票行動に表れなかったのか。
■恐怖の克服は緑の政府で
コロンビアの軍事的混乱によって死の、あるいはそれより酷い恐怖を味わった人は、少なくとも数百万単位で存在する。彼らの多くは、現政権路線の継承を望まない。ところが、自らの投票行動が軍や民兵組織にばれた場合の報復を恐れ、彼らの多くは逆にサントスに投票するのだ。実際、内戦を経験した国々の選挙では、軍による被害が大きいほど、軍に近い政党の投票率が高いという現象が多くみられる。モックス自身、選挙後のインタビューでこう語っている。「投票日まで、私はコロンビア社会が恐怖を克服できるのではないかと期待していた。それは世界初の緑の政府によってこそ可能だったのだ」。
負けはしたが、非暴力を掲げる緑の党が大統領選で決選投票まで残ったということだけでも、コロンビア政治史にとっては世紀の大事件である。暴力の連鎖を断ち切る国民の意思が、史上初めて政治的に反映されたからだ。そしてそれは、緑の党だからこそ可能なことだったのである。