*週刊現代“今週の遺言”第45回を編集部・筆者の了解を得て大橋巨泉オフィシャルウェブサイトより転載
民主圧勝もいいが緑の党の議席のない国に未来なんてないも同然だ
2009年9月05日号
総選挙は大方の予想通り(以上?)に、民主党の大勝に終った。本誌などは大分前から「300議席」と書きまくっていたが、近年の選挙予想は怖ろしい程正確だ。2001年の参院選で、開票が始まって5分後に、今は亡き筑紫哲也君から「巨泉さん、当選確実おめでとうございます」と言われて当惑した。「おいおいまだ5分しか経っていないぜ」というボクに、たった2年後輩(早大新聞科)のキャスターは、「今はそういう時代なんですよ」と言った。あれからすでに8年も過ぎている。今やもっと進んでいるのだろう。前回の郵政選挙で議席を失った連中も、皆帰って来た。ボクの選挙の時世話になった手塚仁雄君(東京5区で佐藤ゆかり氏を破った)と、千葉6区で返り咲いた生方幸夫君には、祝電を打った。生方君は民主党リベラル派の重要人物で、落選中はボクの事務所で評論家活動を続けていた。彼のようなぶれない議員だけなら安心なのだが、民主党には「風の吹き方によっては」すぐにでも自民党に行きそうな人も多く居る。以前から書いているように、社民、共産、国民、みんななどの少数政党がキーポイントになる。そうでないと、また「大連立」などという、とんでもない(国民の声を無視した)事を考える奴等が出てくる(その点に関しては、鳩山由紀夫も前科がある事をお忘れなく!!)。
半世紀も経って、ようやく政権交代を為しとげた日本の民主主義は、まだまだやっと中学生というところなのだ。一番未成熟なところは、いまだに緑の党に議席を与えたことがないことだ。こんな国は先進国では例外的である。環境問題に特に関心の高いヨーロッパでは、各国でふたけたに近い得票率を得ている。一番強いのはドイツで、先年左派連立政権には加わって与党になった。現在のメルケル”大連立”政権では、再び野に下って、脱原発やCO2削減に力をそそいでいる。いわゆる欧州議会にも進出しており、各国とも緑の党及びその支持者の声は無視できなくなっている。
選挙形態の違いで、少数政党の進出が難しいアメリカでも、議席はとも角、”声”は届いている。日本でも有名なラルフ・ネイダーや現党首のシンシア・マッキニーは歴代の大統領選で注目を浴びる。現政権党である民主党がより緑の党に近いため、ラルフ・ネイダーの立候補が、ゴアの敗因だと言われた事もある。アメリカとは少々違うカナダでは、国会に議席をもった事もあるし、地方議会ではかなり進出している。「緑」が強いのはオセアニアで、オーストラリア、ニュージーランドとも、緑の声を無視しては、政治が行えないと言っても過言ではない。
それに比べると弱いのは、アジアやアフリカである。人間が地球環境に心を配るのは、「衣食足りて礼節を知る」の格言通り、生活のレベルがある程度確保できての話である。生活水準が低く、政治も不安定なこれらの地域で、緑の党が少ないのは、ある程度理解できる。ただしニッポン国は、世界第2の経済大国である。その国の端から端まで探しても、緑の党の議席は見つからない。議席ばかりでなく、インターネットを開いても、ほとんどアクセスするところがない。他の先進国の「グリーン・パーティー」もしくは「グリーンズ」を検索してごらんなさい。ポリシーや運動、更にドネイション(寄附)など、クリックすればすべてが通じ、誰でも参加できる。緑の運動に、大企業は不親切だ。一人一人の個人が、子孫のために浄財を寄附して成り立つ運動である。
今でも忘れられない。ボクが参議院議員を辞職する数日前のこと、2002年の1月末であった。議員食堂で、紋次郎こと中村敦夫君と同席した。彼はボクにそっと一枚の紙を渡した。そこには「みどりの会議」という新政党の設立要旨が書いてあった。「巨泉さんは比例代表なので他党には移れないが、新党には参加できるんですよね」と紋次郎は言う。ボクは議員在職中、欠かさず彼が中心になっていた「公共事業チェック議員の会」に出席していたので、その姿勢が買われたのだろう。ボクはその紙を預った。
余程一緒にやろうかと思った。しかし100人以上居た民主党でも出来ないのに、たった二人で何が出来るのか。ボクは2ヵ月足らずで68歳になろうとしていた。それより野に下って、民主、社民、共産などの野党を応援し、環境問題を解決に向わせる方が、効果があると考えた。のちに再会した時、ボクは中村君に「あと5年若かったらイエスと言ったと思う」と言った。みどりの会議は次の選挙で議席を失い、中村君は政界引退、運動は挫折した。
前述の「チェック議員の会」は超党派が建前で、民主党から(社民、共産も)多くの議員が出席していた。一方自民党や公明党の人は、ほとんど参加しなかった。やはり民主党は環境問題に取り組んで来た政党なのだ。ボクは環境委員だったが、福山哲郎君にはとても世話になった。彼とか岡崎トミ子さんなどは、新内閣の環境大臣の適任者であると考える。
先日娘一家がカナダへ来て、女房がコロンビア大氷河へ案内した。帰って来た女房は(過去38年間に十数回行っている)、氷河が余りにも後退しているのに驚愕していた。地球温暖化や汚染は、着実に進んでいる。民主党のマニフェストにも掲げられている。ただすぐに国民の人気につながらないので、どのくらい推進できるか。高速道路無料化などは人気になろうが、逆に汚染や温暖化につながり兼ねない。地球は限界に来ている。政治が未来を設計するものだとすれば、答は明確に出ている。